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Report | A’23 – AIA Conference on Architecture, San Francisco _ ZORAKU Yumi
Updated: Jul 17, 2023
2023年6月7日から10日、AIA(American Institute of Architects:アメリカ建築家協会)の大会A’23がサンフランシスコで開催されました。JIAはAIAと二国間協定を結んでいるため毎年互いの大会に会長を招待しており、今年は佐藤尚巳会長、竹馬大二国際委員長、蔵楽友美国際委員の3名が参加しました。
会場はサンフランシスコの都心ユニオン・スクエアから徒歩5分ほどのイェルバ・ブエナ地区にあるモスコーニ・センター(HOK、1981/SOM、2018増築)。イェルバ・ブエナ芸術センター(槇文彦、1993)とともに90年代に公園と一体となって整備されており、通り向かいにSF MoMA(マリオ・ボッタ、1995/スノヘッタ、2016増築)、MoMAの軸線の先には5ブロックを貫く長さ(440m)の交通ターミナルであるトランジット・センター(ペリ・クラーク・ペリ・アーキテクツ監修)が2018年にオープン、さらにその周辺にOMAやStudio Gangの集合住宅タワーが完成しています。A’23のプログラムの合間にこれらの建築や再開発が進む様子を見学することができました。透かし模様のアルミパネルが白い雲のようにうねる外観と屋上公園が独特の存在感をもつトランジット・センターはサンフランシスコで最も高い326mのタワーに直結し、テックカンパニーが命名権を購入した(これもサンフランシスコらしい)ため、セールスフォース・タワー&パークと呼ばれています。地上部分の屋上公園・地方への高速バスターミナル・商業施設エリアが既に稼働しており、将来は地下に高速鉄道が乗り入れをする予定とのことで数年後が楽しみな反面、商業施設エリアが閑散としていることにパンデミックの影響がうかがえました。その痕跡は、滞在ホテル近隣のユニオン・スクエア周辺の高級ショッピングエリアに空きテナントが散見されたことや、隣接するテンダーロイン地区の治安の悪化(コロナ期にホームレスをこの地区に集めたことが原因となっているとのこと)にもあらわれていました。
オープニング・セレブレーションは都心部から車で20分ほどのゴールデン・ゲート・パーク内のカリフォルニア科学アカデミー(レンゾ・ピアノ、2018大規模リノベーション)を全館貸切。亜熱帯温室、プラネタリウム、水槽の上に「グリーンルーフ」と呼ばれる緑化&太陽光発電パネルの屋根が載った世界最大の自然史博物館は、アメリカ国内および世界各地から参加した建築家たちが再会を喜ぶ姿でにぎわっていました。初日の夜はメインホテル(ヒルトン)のエントランスロビーも建築家たちの再会とネットワーキングの場と化しており、JIAメンバーでありAIAメンバーでもある国広ジョージ氏や、マレーシア・バングラデシュ等のアルカジアメンバーとも合流することができました。翌8日から基調講演・会議・セミナー・Architecture EXPO等がスタートしました。
3回の基調講演は、いずれも前座に短いトークやスピーチがある構成でした。横長の巨大なスクリーンを駆使した映像による舞台演出には驚かされ、また会期中にもかかわらず翌日には講演のサマリー記事がニュースレターとして届くという物事の進み方とスピード感に、AIAの大会運営力や広報力(とその資金力)を感じさせられました。
DAY1 8 June – Thursday
トーク:Emily Grandstaff-Rice, FAIA(AIA President)、Lakisha Woods(AIA CEO)、 Mike Chapman(Executive Director – By Design)
ゴールデンタイムのTV番組「America ByDesign」とAIAの提携を発表。8月以降にCBSネットワークで放送されるAmerica ByDesign: Architectureのシーズン2にAIAメンバーが登場することは、社会一般にAIAの建築家のスキルと建築の価値を伝える大きなチャンスだと伝えていました。
基調講演:Barbara Bouza, FAIA (Walt Disney Imagineering President)
パークやアトラクション、クルーズ船等の設計を行うウォルト・ディズニー・イマジニアリング社では、建築家をはじめとするクリエイターはイマジニア(イマジネーションとエンジニアをあわせたウォルト・ディズニーの造語)と呼ばれます。講演はバーバラさんの少女時代のディズニー・パークと家族の思い出、学生時代のNorma Sklarek(アフリカ系黒人女性建築家の先駆者)の作品研究の話等、自身の人生のストーリーを共有するものでした。来春東京にも新エリアがオープンする「FROZEN(アナと雪の女王)」のアトラクション、エルサのオーディオアニマトロニクス(音に合わせて生きているかのように動く人形)をパンデミック期の仕事として紹介したほか、香港のパークをクローズせざるを得なかった期間にお城の高さを2倍に建て替える工事を行い、プロジェクションマッピングを用いた新しいショーを開発したエピソードは逆境を逆手に取るポジティブな姿勢を示すものでした。また、クルーズ船の仕事は体験そのものを創造することであり、記憶に残るものをつくるのがイマジニア(建築家)の仕事で、自分たちの仕事は人々の人生を決定づける物語の背景となると語り、最後にその仕事をしている幸せと感謝が述べられました。
DAY2 9 June – Friday
スピーチ: Emily Grandstaff-Rice, FAIA(AIA President)
最年少の女性会長であるエミリー会長のスピーチは「Being architect」「value of architect」「Do this through the power of design.」「Impact of positive leadership」「You are leader.」「Look at the world through the lens of design.」等の前向きなフレーズがちりばめられていました。大きなステージにひとり立ち建築家の価値について力強く語る姿は、仲間の士気を高めるリーダーのスピーチそのもので、この大会で最も大きく心を動かされるものでした。
基調講演:
Moderator: Amy Bunszel(EVP of AEC Design Solutions at Autodesk)
Robin Carnahan(Administrator of the U.S. General Services Administration)
Jennifer Devlin-Herbert, FAIA(President & CEO of EHDD)
Eric Lamb(A Member of DPR Construction’s board of directors)
建築をとりまく複雑な環境、持続可能性が求められるなかでのデザインビルド(設計と施工の統合)について、行政、設計、施工それぞれの専門家による対話。
DAY3 10 June – Saturday
トーク:Kimberly N. Dowdell, AIA, NOMAC(2023 First Vice President)
来期2024年に会長を務めるキンバリー副会長(女性最年少を更新かつ、100人目のAIA会長となる)が登場し、A’24の開催地がワシントンD.C.となることを発表しました。
基調講演:Jacinda Ardern(The former Prime Minister of New Zealand)
ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン元首相の講演は、エミリー会長が聞き役となり対談の形でおこなわれました。建築家の大会での講演という事で、首相任期中に完成した公共建築、HOMEGROUND(Stevens Lawson Architects、2022)の様々なコンセプト-豊かで文化的な居住環境、住む人の尊厳、ホームレスの居住空間と医療およびコミュニティサービスの複合、木造高層建築、アダプティブ・リユース、炭素削減、雨水利用等-が紹介されました。エミリー会長は、首相就任、内閣の多様性(女性、マオリ族)、モスク銃乱射事件、パンデミック、首相辞任、これからの人生といった観客が聞きたがるトピックを押さえながらも、特にリーダーシップについてどう考えるかを問い、それに対しジャシンダ元首相は、自分も含めた人々の尊厳の確立と、リーダーが人間らしい姿を見せること(It’s OK to be human when you are a leader.)、課題に対して人々が一丸となること(to unify around challenge)について自身の経験を語りました。講演の最後には既に始まっているアメリカでの新生活(ハーバード・ケネディ・スクール)についても触れられました。
AIAフェローの称号は建築と社会に貢献したAIAの建築家に授与されるもので、2023年のFAIAは73人、外国人に与えられるHon.FAIA(名誉フェロー)は3人。その授与式は基調講演と同じ会場でスクリーンの映像演出で趣を変えておこなわれました。歴代のAIA会長たちも見守る中、大学の卒業式のようなガウンを着用した新フェローがひとりずつ名前を呼ばれ、壇上でメダルの授与を受けます。家族や友人が参列して祝福する様子も見られました。授与式の夜におこなわれたブラック・タイの祝賀レセプションには2016年のHon.FAIAである元JIA国際委員長の佐野吉彦氏も駆けつけ、私たちJIAメンバーも新フェローをお祝いしました。
IPFは毎年恒例のラウンドテーブル形式(エミリー会長が各テーブルをまわり議論に参加する)で、今年のディスカッションテーマは「他組織とのコラボレーション」でした。AIAからはエミリー会長、キンバリー次期会長、ラキシャCEO、次にアメリカの建築関連三団体(AIAS,Association of Collegiate Schools of Architecture, NCARB)の会長たち、アフリカ連合・Architects’ Council of Europe・オーストラリア・コスタリカ・メキシコ・韓国・日本・カナダ・英国の海外団体の会長たち、そしてUIA会長José Luis Cortés氏が一堂に会しました。学生団体の会長がこの場に呼ばれ、海外の建築家協会の会長たちとテーブルを共にしてディスカッションに加わることは興味深く、アメリカが国際社会でリーダーシップをとっていこうという姿勢が後進の育成(経験の付与)にも表れているように感じました。また、冒頭には佐藤尚巳JIA会長を含む海外の会長数名にHon. AIAの授与がありました。
毎年恒例のJIA-AIA会議では、JIAとAIAが互いに近況をアップデートする活動報告を行いました。同じ「建築家協会」とはいうものの、カーボンニュートラルへの取り組みひとつにおいても異なり、CNセミナーの積極的展開を行うJIAに対し、AIAからは(政府ではなくAIAが)独自に達成基準を掲げ目標を達成しつつあることや、AIA本部建物のリニューアルにおける努力等が紹介されました。文化・社会の背景や資格制度も異なる二国では、やるべきこと・できること・それに対するアプローチが異なる現実を知りました。
また、会期中にはJIA同様にAIAの大会に招待されていたRAIC(Royal Architectural Institute of Canada:王立カナダ建築協会)、RIBA(Royal Institute of British Architects:王立英国建築家協会)とのミーティングも実現でき、UIAとの関係性、建築家資格や次世代教育についてのほか、EDI、CN、Adaptive Reuseが旬の話題となっていました。
佐藤会長と竹馬委員長に同行し世界の建築家たちと交流した4日間の学びは大きく、私自身まだ咀嚼しきれないまま帰国後の日々が過ぎる中、AIA大会のサイト(https://conferenceonarchitecture.com/)はただちにA’24に更新され(A’23はアーカイブサイトに移行)、そのスピード感と鮮やかなふるまいにも感心させられます。大会サイトやロゴに関する一気通貫したアートディレクションとその効率的な運営にも団体として学ぶべき点が多いと感じます。1年ごとに会長が変わる仕組みは、建築家たちが人生の中で職能団体の活動に短期集中的に力を注ぐことができる一面があると思い当たり、また、1年でリーダーが変わっても組織自体はぶれずに維持されるコンセプトにも大きな興味をもちました。会期中には2025年の会長にEvelyn Leeさんの名前が発表されました。AIAは女性会長の時代が続くようです。
(JIA国際委員 蔵楽友美)